研究について
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当研究室の研究内容
筋肉は鍛えると太く逞しくなりますが、使わないとやせ衰えます。宇宙空間では重力が作用しないため骨が弱くなってしまいます。
このように「力」は生命現象と深く関わっています。 私たちの体の中の細胞は、体の内外に生じる力の変化を感知する力学センサーであるとともに、それに応答して様々な機能を変化させる「マイクロマシン』と考えることができます。
当研究室では、細胞がどうやって力を感知し、応答しているのか、そのメカニズムを機械的観点から「材料工学」「精密工学」「情報工学」の技術を駆使して明らかにしていきます。 そして、細胞に加わる力や、細胞周囲の物理的な環境を操作することで、細胞の分化や機能を制御する全く新しい医工学技術の開発を目指します。 -
1)血管の病気と「細胞の構造や力」の関わりを明らかにする研究
高血圧や動脈硬化は生命に関わる重篤な病気です。
最近では、血管に加わる「力」の変化が、動脈硬化などの病気に深く関与していることが分かってきました。
血管組織内には、血管の伸び縮みや、血管の強度を調整している『平滑筋細胞』が存在します。
そこで、平滑筋細胞の強度や接着力などの材料特性の変化を詳しく調べるとともに、細胞に様々な「力学刺激」を加えながら、細胞の収縮能力や遺伝子の変化を、細胞手術用レーザーシステム、共焦点顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)などの最新の実験装置を駆使して詳しく調べています。
細胞に加わる「力」を最適に操作することで、血管の病気を効果的に予防・改善したり、最適な再生血管組織を生み出す技術を開発していきます(一部、筑波大・医学部との共同研究)。
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2)細胞が発生する力を計測したり、細胞が力学刺激を感知するメカニズムを調べる研究
血管や骨などの生体組織中の細胞はnNオーダーの力(収縮力)を発生し、その力を変化させて体の中を動き回ったり、組織の構造や強度を変化させたりしています。
この微少な力の変化を精密に計測するシステムを開発し、力を計って細胞の健康状態や老化などを評価する手法を開発していきます。
最近では、細胞内の「細胞骨格」が、細胞運動を制御したり、細胞内に力を伝えたりする機械的要素と考えられ始めています。
そこで、レーザーで細胞内の細胞骨格を切断して力のバランスを変化させたり、磁場で動くマイクロアクチュエータで力学刺激を加えたりします。 このようにして、力が細胞内にどのように伝わって機能変化を引き起こすのか?そのメカニズムを詳しく調べています。
(一部、名古屋大工学部との共同研究(力センサー細胞の活用))
さらに「機械学習」を使って、細胞の種類や運動の違いを判別したり、細胞運命を予測する手法の開発も進めています。
傷口を修復する細胞運動の様子 細胞骨格と核の動き -
3)「細胞核」の構造を理解し、力学刺激を負荷して様々な機能制御を目指す研究
細胞核の中には、いろいろな機能を調整する遺伝子(DNA)が存在します。細胞核に力や変形を加えることで、細胞核の中のDNAが縮んだり広がったりして、遺伝子の発現が変化する可能性があります。
この研究では、特殊なマイクロ加工基板などを活用して、核に力や変形を加え、がん細胞の分裂・増殖を抑制できるかどうか?放射線や紫外線に対して細胞が強くなるかどうか?などを詳しく調べています。(一部、本学・理学部や量子線科学専攻との共同研究)
また、最近では、東京歯科大学との共同研究として、骨の病気と細胞核の硬さの関係性も詳しく調べています。